第4章 扉のむこう
~岩泉side②~
ピーピーうるさい及川を置いて、俺はホールまで出てきた。
アチコチで、恐らく敗退したのであろう選手達が荷物をまとめている姿が見える。
俺はそんな中、アイツの姿を探していた。
いろんな選手がいるなか、ポツンと立ち尽くす小さい影を見つけた。
その影に近付こうと1歩を踏み出したところで、俺はそれ以上進むことが出来なくなった。
それは小さな影が俯き、その肩を震わせていたからだ。
・・・泣いて、ん、のか?
こんな時、俺はなんて声を掛けてやればいいのか躊躇する。
よく頑張った、また次に頑張れ、まだ終わりじゃない・・・
いや、どれも違う。頑張ったのは確かだろうが、声を殺して肩を震わせる姿は自分のプレーに納得がいっていない後悔の泣き方だ。
次なんてないんだ。
及川なら、きっと、こういう場面に出くわしたら
「頑張ったんだからいいじゃな~い、ほら、泣かない泣かない。ご褒美にハグしてあげるから、ギューッ」
なんて言いながら、躊躇いなくギューッってするんだろうが。
いや、俺の目の前でそんな事した時にはブン殴るケドな。いやいやいや、目の前じゃなくてもブン殴るケドな。
「及川だったら・・・」
ボソッと呟いてしまって、こんな時にはあの能天気ヤローの名前を口に出してしまった事に後悔する。
「オレだったら何かな~?」
イキナリ声をかけられ、俺は肩をびくつかせた。
振り返ると怪しくニヤつく及川が真後ろにいた。
「テ、テメェいつからそこにいやがった」
「ん~?岩ちゃんが遅いなぁってホール出てきたら、紡ちゃんの後ろ姿をジィ~と見つめる岩ちゃんがいてさ。何してんのかなぁって、見てた」
「見んな」
ゴッ!
「痛いよ岩ちゃんっ!なんで殴るのさ!」
「ウルセェ黙れグズ川!」
「暴力反、モガっ!!」
「黙れってんだろ!」
うるさく騒ぐ及川の口を塞ぎ、俺はそばにある柱の影へと移動した。