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人魚姫ストラテジー【HxH】【裏】

第15章 母と私


しゅん、とまた表情が消える。
「絵を続けたいと言ったのです。わたくしが初めてお母様に直にお願いいたしました。それだけです。」
「何にも興味を抱くなってことか。」
その言葉だけで、この家の教育方針が見えた。
初めての我が儘すら通らず、こうしてただ描いているだけの毎日。
「俺、美術品は仕事柄よく観る方なんだけど、これ、本当に上手いよ。ちゃんと魂がこもってて、好きなのもわかる。」
どれだけ待っていたのだろう、こういった類の言葉を。
それは母親に対して期待していた。
母ではないけれども、彼に何かを言って貰うのは限りなく心地よい。
胸にしみて、その言葉一つ一つが涙として流れる。
「あ、ごめん。なんか悪いこと言ったか?」
首を横に振り、否定を意味する。
それでもとめどなく溢れる水を止められず、初めて声をあげずに泣いた。
「大丈夫、またいつか、好きに描いていいって言われるさ。」
初めて抱き締めてくれたのは、母ではなく彼だった。
泣きやむまでずっと背中を撫でてくれた優しい手。
例え仕事の一つでも、彼が本音で慰めてくれていることがわかった。
初めて人の優しさに触れたのは、母ではなく彼だった。
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