第11章 トランプと少女
「ルル、大丈夫だ。」
彼は確かにそう言ったが、少女がぱっと視線を離した。
大きな距離を感じる。
怖がって正気を亡くしているのか、ただ呆然と焦点が合わさっていない箇所を見定める。
「ヒソカ、頼む。そいつを返してくれ。」
「嫌だね。君の愛情を一心に受けた娘だもの。そう簡単には返さないよ。もっとズタズタにして、君の本気を出して欲しいんだ…。」
ヒソカはそう言うと、身体に散らしていた全ての羽をばら捲き、鳥になったように空高く舞い上がり消えていった。
歓声がまた聞こえる。
「…団長!なんで追わないんだよ!」
不意にシャルナークの声がした。
「……。」
「団長!!」
無言でパレードカーを降りる。
地面に散った羽がふさっと舞った。
「…あいつ、俺と目を合わせなかった…。」
「そんだけっ!?」
「…っ!目を合わせずにあいつの胸にしがみついたんだ!」
失言だった、とシャルナークははっと口に手を当てる。
いくら正気じゃなかったと言えど、彼にとって初めて依存している相手。
そんな彼女は、いつもと違う態度を取った。拒否をされた。
ショックが隠せなかったようだ。
ホームでも、一人クロロは部屋に籠もった。
誰も口を開かずにその日は解散した。
シャルナークだけはヒソカの居場所を、とパソコンを開いたが、作業が捗るわけでもなく。
ただゆっくりと日が明けるのを待つしかすることがない。
何杯目かのコーヒーを煎れようと立ち上がり、一応、クロロの部屋に立ち寄る。
「団長、寝れてないんでしょ?コーヒーいる?」
「…ああ…。」
小さく低い彼の声が聞こえた。