第9章 真実と少女
世の母親というのは皆こうなのだろうかと一瞬驚く。
「わたくし達カヅキ家は代々、貴方もご存じの、≪夢を叶える本≫というものの作成をしております。より完璧に近付ける為に。
まだ未完成な点はございますが、大分完璧な物となってきておりますわ。」
「自分の娘に名前を書かせたと?」
「いいえ。貴方は覚えていらっしゃらないかしら?一度幼いルルにお会いしたことがあるのですが…。」
「…記憶にないな。」
慈善活動の一環であちこちのボディガードをやっていたが、カヅキ家で一度その類で関わりがあったのか。
すぐにその答えに行くことは出来たが、彼女やその母親は全く覚えていなかった。
「ルルはあの本に自ら名前を書きました。≪クロロ=ルシルフル≫貴方と≪結ばれたい≫と。」
「!」
自分があの日、あの屋敷で感じた強い好奇心、あれが本によって呼び起された物なのか?
そして今もお互い、強い依存心でつながっているのがあの本の影響なのか?
そう考えるとどこか虚しい。
虚しいけれども、それが何故なのかわからない。
ただ欲しい本を追い求めていたら、少女が見つかった。
それだけだと思っていた。
運命を狂わされたのか、それとも誘導されたのか。
実際、本が無かったら出会っていなかったのか。
色々考えがめまぐるしく回った。
「代償は声。彼女はわたくしの為にいい被験体になってくださいましたわ。お陰で新しいデータが取れましたもの。」
母親としてではなく、学者として彼女に接することを決めたルリア。
少し狂気を感じる。
「そして貴方と実際結ばれた、これはかなり大きい前進となりますわ。」
ルルがどんな思いで自分の名前を書いたのか、そして何故自分を選んだのか、そして幽閉されなければならなかったのか。