第9章 真実と少女
「早いお付きですね!意外です!」
道化師の男は甲高い声をしており、かなりの早口だった。
「このまま屋敷までお願いいたします。本当は迎えの者を寄越そうかと思ったのですが、手間が省けて大変感謝です。」
「…。」
何を考えているかわからなかったが、このまま奪い返すのでは、地面に彼女をうっかり落とした場合、普通の怪我では済まされない。
そう思うと従うしかなかった。
「シャル、ノブナガ、悪いが一度引き返して仲間にこのことを…。」
「告げ口はよろしくありませんねえ。人質を取られている状態なんですよそちらは、ええ…人質をね。お一人でお越しくださいね。」
「…引き返してくれ。なんとかする。」
「了解…。」
「ま、危ない目には遭わないと思うが。」
口々にそう言うと、蜘蛛の手足は散っていった。
「これで文句はないだろう?」
「くくく…よくできました。」
道化師の男はまだスピードを保ったまま、ゆっくり目的地である巨大な屋敷へと向かっていった。
「到着です。」
カヅキ家の大豪邸。
和洋を上品に取り入れたその家は、かなり大きかった。
決して成金趣味ではない、あっちの屋敷とは格が違った。
門から庭園を抜け、一度屋敷に入り、中庭に抜け、奥へ進むと漸く大きな部屋に通された。
家具一式は最高級の木材。漆を塗ったフローリングがきらきらと輝いて、大きな窓が特徴の書斎のような部屋だった。
そこに細身の綺麗な女性が立っていた。
どことなく面影が、ソファーに寝かされている彼女に似ている。
「初めまして、貴方がクロロ様ですわね。」
女性が挨拶してきた。上品な口調でいかにもな奥様という雰囲気。屋敷の部屋とよく合っていた。
「名前を知っているとは、自己紹介の手間が省けたな。それで、貴方様はどのような方で?」
苛々しているのか、いつもより棘のある話し方をしてしまう。
「カヅキ家当主のルリアと申します。ルルの母親でございます。」
彼女は丁寧にお辞儀まですると、席に着いた。
「どうぞ、長くなると思います。お掛けになって?」
促され、クロロも向かいのソファーに座ると、紅茶が道化師からもらった。目の前で湯気を上げているそのカップを一瞬見つめる。
「で、母親がどういった心境で記憶のない娘を幽閉する羽目に?」
「ああ、彼女はわたくしの被験体ですもの。」
さらりと言ってのけた。