第7章 満月の夜と少女 裏
服をマチに買ってきてもらうと、あまり興味無さそうに自分に合わせていた。
容姿は絶世の美女ではないが、可愛げがあり、そこらにいる化粧や服や装飾で着飾っている女よりずっと美しく思える。
マチのセンスもあったが、買ってきた服は全てよく似合っており、少なからず、本音で、「可愛いな」と呟いてしまう程だった。
念も使えなければ、体術も一切使えず、弱く儚い存在。
今までそんな女に惹かれるなんて微塵も思っていなかった。
彼女は甘えることはあっても、媚びる行動は一切しない。
ただ黙って俺の傍で眠ったり、遊んだり、本を読んだり、絵を描いたりしているだけ。
眠る時は必ず一緒に横になるように頼んで、風呂は必ず一緒に入るように言ってくる。
そう、拉致してから、買い物の時以外、離れたことがなかった。
ルルがいないことに不満はないが、段々一緒にいることが当たり前となってしまった。
感情の意志疎通というものがようやくできるようになったのは、例え5日前に知り合ったものでもほぼ全時間をともに費やせば難しくはなかった。
生きた時間は年齢でも、他人と接する時間が極端に短かった彼女なら尚更である。
だから気付けたのだ。違和感に。
ルルがいつもより感情を表に出さないことを不思議に思った。
否、出会ってからずっとそうだったのかもしれない。
目まぐるしい変化で気付けなかっただけかもしれない。
ルルは、いつもより無表情だった。
「どうかしたのか?」
ルルは俺の膝の上で、一緒に同じ本を読んでいた。
単語の説明をしながら、小学低学年くらいの簡単な物語だ。
人魚姫、というタイトルだっただろうか。
声を失い、会いたい人に会いに行くという恋の話だ。
もどかしい気持ちになる誰もが知っている悲恋。
ルルは自分がどんな顔をしていたのか気づいていなかったのか、俺の方に振り返り、なんで?と首を傾げて尋ねる。