第6章 蜘蛛と少女
ふとそう考えたが、そういうわけでもないのだろう。
ただ、少女がそこにいた。今はその一言で全てが片付けられてしまう。
ひとまず、ルルについての簡単な情報が気になった。
「ルル…、ルルはあの屋敷に小さい時からいたのか?」
急な声かけにはっとしたようにクロロの顔を見た。そして、肯定の意味で頷く。
「何歳から、とか覚えてないか?」
否定を示す。
「あの部屋から、出たことあるか?」
否定を示す。
「ずっとあの部屋にいて、毎日パンだけ食べていたのか?」
肯定、した。
あの狭い部屋、といっても普通には広いところだが、そこから一歩も外に出ず、中で暮らしている。
外界を知ったのは、自分が初めて連れ出したから。
「他は何してたんだ?」
と聞くと、色々、と答えた。
「色々?」
その質問には、まず、マリア、という単語が出てきた。
マリアはルルの専属メイドということだろうか。
どうやら多分自分の手足が殺したであろうメイドと遊んでいたということだった。
「マリアは、あの部屋と外に行けたのか?」
ルルは髪をふわっとさせて頷いた。
完全にルルだけが、外界から遮断されていることになる。
「あとは?」
と聞くと、口元をゆっくり見て、なんの答えか考えた。
絵、と言っている。毎日紙と筆記用具だけは与えられていたらしく、それで暇を潰していたのであろう。
おかげであんな綺麗にパンと水の絵を描くことが出来たのだから。
部屋には、テレビもなくラジオもなく、絵本だけあったが、文字を習うことは誰にも許されず、今の今まで文字は絵の一部だと思い込んでいた程だった。
彼女は部屋で、毎日絵を描き、絵本を眺め、マリアと言われる専属メイドと遊び、少しだけ、困らない程度のコミュニケーションと語彙を与えられ、
今の年齢に至るという。もちろん憶測ではある。もしかしたら言葉と一緒に記憶を喪失している場合もある。
話を聞いている限りでは、全く精神的な欠陥があるとは思えないのだが。
そして外界との接触を一切禁止されている。マリアと話をしたことがない、と言っていた。