第6章 蜘蛛と少女
部屋に入ると、早速荷物をクロロが広げ始めた。
色々な服が入っているのを見て満足そうにしている。
ふとルルが自分の顔をじーっと見ている。
「どれが気に入ったんだ?」
と尋ねると、ルルは「あいすくりーむ!」と声無しで答えた。
クロロは一瞬驚いていたが、やがて、よしよしとルルの頭をなでた。
まだまだ見た目同様に成熟していないルルが、たまにこの上なく可愛く感じてしまう。
そんな自分に、父性や庇護欲があるのだろうか、と考えてしまう。
服はざっと数えて30着以上はあり、種類もジャンルも様々だった。
仕事用のドレスコードもそろえてある。
マチはよく働くな、と少し感心した。
ルルは服を出しながら、気まぐれに着てみてはそれを元あった袋に戻していった。
「どれも似合うな。」
と言うと、赤面して、ありがとう、と答えた。
昨日から思っていたことだが、ルルは誉め言葉にとても弱い。
長い間、どういう生活をしていたのかますます想像が出来なくなる。
豪邸からして大層いい生活をし、いい食事をし、いい洋服を着せてもらい、
たまに開かれるパーティーには強制的に参加させられ、年齢的には学校にも行き、そこそこの学力を携え、
普通の女みたいに恋愛をしたり映画を見たり本を読んだりしていたのではないか。
しかし、全くそういう素振りも感じなければ、感受性や社会性は、幼稚園児かはたまたそれ以下か。
学力にいたっては、文字の読み書きすら出来ない、そしてあまりにも低い語彙力。
コミュニケーションに関しては全く問題がないことから、知的障害ではないことはうかがえた。
ただ、今まで当たり前のようにやっていくことを、やってこなかっただけなのではないか。
それは流星街出身の自分にも言えることだったが、自分が雑草のように荒地で育ったと仮定すると、ルルの場合は高級温室育ちだ。
敵からも守られ、ただ世話をされることに慣れている。
全く正反対なことに、あの日自分の好奇心は動いたのだろうか。