第2章 ~一十木音也の場合~
結局、音也くんとは話せないまま放課後になってしまった。
あと少しの勇気があったら、音也くんと話せたかもしれない…。
どうしていつも勇気が出せないのかと、後悔だけが頭に残ってなかなか消えてはくれない。
「はぁー…。」
寂しさがため息となってこぼれてしまう。
そんな私に後ろから
「北橋!
今日、元気ないみたいだけど…何かあった?」
と、太陽のようなあったかい声が飛んできた。
その声が誰のものかなんて見なくても分かる。
「音也くん…。」
“大丈夫だよ”
って言いたいのに、好きな人を目の前にして、また声が出なくなる。
「…北橋?」
音也くんは私の顔を覗き込む。
「…な、何でもないっ!」
近すぎる距離が恥ずかしくて、つい、強い言い方をしてしまった。
けれど音也くんは
「そっかぁ…。よかったぁー!」
そう言って、私の大好きな笑顔を向けてくれた。
優しい言葉に胸が高鳴る。
そういえば、私が音也くんに恋したきっかけもその優しさが理由だった。
パートナーとうまくいかなくて、アイドルになるってことを諦めかけてた私に
“諦めちゃダメだよ!
俺、北橋の歌すっごくいいなって思ったんだ!
同じ夢を一緒に追いかけよう!”
って眩しい笑顔で励ましてくれた。
そのとき、私は音也くんに恋をした。
「じゃぁ、俺そろそろ行くよ!
また明日!」
音也くんは片手を軽くあげて、私に背中を向けた。
「あっ…待って!」
私の口は勝手に動いていた。