第2章 ~一十木音也の場合~
教室に着くと
「おはよ、唯!」
友人である愛結美がいきなり抱きついてきた。
「きゃっ! 愛結美…く、苦しい…!」
「ごめんごめんっ!!」
愛結美はすぐに手を離してくれた。
「だ、大丈夫…!おはよう…!!」
愛結美に返事をしてから、教室を見渡した。
音也くん、来てないかな…。
私がひっそりと恋心を抱いている相手…一十木音也くんの姿を探していると、愛結美が私の気持ちを察したのか
「おとやんなら…あそこに居るよ。」
と、教室の一番後ろの席の窓の所を指さした。
そこには確かに、窓に寄りかかって楽しそうにしている音也くんが居た。
けれど、音也くんが笑顔を向ける先にはそのパートナーである七海春歌…春ちゃんが居た。
二人は仲が良く、いつも楽しそうに話している。
春ちゃんはとても優しくて真っ直ぐな子だと思っているし、尊敬もしているけど、やっぱり嫉妬はしてしまう…。
「…っ。」
私も音也くんと話したい…。
あの笑顔を私にも向けて欲しい…。
そう思っていても、なかなか声を掛けられないのが私の駄目な所で…。
このままじゃいけないのは分かってるのに、勇気が出ない…。
私はギュッと唇を噛み締めて、音也くんの居る所から目を逸らした。