第6章 ~神宮寺レンの場合~
「唯ーっ!」
夢中で神宮寺さんを見ていると、友人でルームメイトの愛結美がこちらに駆け寄って来た。
「また見てたの…?」
愛結美は私の前まで着くと、神宮寺さんの方に視線を流して尋ねた。
「そりゃあ…気になるもん…。」
私も神宮寺さんから目を離さずに答える。
「そっか…。
ねぇ、唯はあの輪に入りたいとは思わないの?」
女子生徒を見ていると、本当に皆幸せそうな顔をしている。
だけど、私はあの輪に入れるだけの自信も実力も無い。
「自信持てばいいのに…。」
「え…っ?」
私の心を見透かすような発言に驚き、愛結美を見た。
「恋愛禁止だけどさ、特別にならなってもいいんじゃない?
“恋人”と“特別”はなんかちょっと違う気がする…。
でも、どっちも距離は近いでしょ?
恋人になれないなら、特別を目指せばいいんじゃない?」
「…特別…。」
「そう!
そのためには、まず自信を持って声を掛けるところからだよ!」
愛結美に背中を押され、神宮寺さんの前まで来た。
神宮寺さんはサックスを吹いているところで、周りの女子生徒はその姿と音色にうっとりしていた。
『どうすればいいの?』
と、愛結美に目で訴えたけれど知らんぷりをされてしまう。
やがて神宮寺さんの演奏が終わり、また黄色い歓声に包まれていた。
「ありがとう、レディ!」
不安になって、もう一度愛結美を見た。
しかし、愛結美は『頑張って』と、大きく頷くだけだった。
特別になるんだよね…?
私は一度深く呼吸を整えてから
「あの…っ」
と口を開いた。
「…何?どうしたんだい?」
「…とても素敵でした!」