第1章 嫁入
「え〜!それで、そのまま家に置いて来ちゃったんですか!?」
サクラが眉間に皺を寄せて、量の拳を震わせて、詰め寄ってきたので、カカシは思わず後ずさる。
「いや、だって、隣で寝るわけにもいかないでしょーよ…」
「このむっつりスケベ!!」
言い訳がましく滑り出た声は、食い気味で投げやりな罵倒の言葉にかき消された。初めて来た土地に知ってる人もいない奥さんを置き去りにするなんて人でなし、という追撃を投げかけるや否や、サクラはカカシの前から姿を消す。
思えば、任務上がりのサクラに出くわしたところから間違いだったのだ。相談を兼ねた世間話のつもりで口にした妻牡丹への扱いは、サクラの逆鱗に触れたようだ。いや、忽然と姿を消した彼女の様子では、おそらく早急に対策を講じていることだろう。相談相手は間違えていない。しかしこうも派手に罵られると、ヤワなハートも傷だらけである。
大きなダメージを受けた心を摩るように、後頭部を掻きながら山積みの書類に目を通す。すると一刻も経たぬ間に、シカマルが執務室のドアを叩いた。そしてこれ見よがしに大至急と書かれた報告書を、目を逸らして差し出した。
「サクラから、火急の案件だそうです」
ありがと、と声をかけてそれを受け取った。どうやらサクラの母親を牡丹の世話役にと推薦するらしい。最後に書き殴られたメモには、一日くらい休んで里を案内しろという命令のような助言があった。
「里の見回りも火影の仕事だ、だそうですよ」
シカマルも俺の尻を叩きに着たのかと聞くと、ただの伝書鳩ですよと返された。