第6章 案山子
望んでも、手に入らないものだった。
教え子や部下、同期たち、仲間たち、そして、六代目火影になってからは、里の人々が家族だった。しかしカカシは、そう思い込んでいただけだったのかもしれないということに、思い当たる。
なぜ彼女だったのだろう。
気付けば側にいるだけだった牡丹に、触れたいと渇望していることに思い至ってしまったのはいつだったか。カカシに駆け寄る足音で、彼女がどう挙動しているのかを思い浮かべることができる。
「ここにいるって聞いて」
そう言ってカカシの顔を覗き込む牡丹は、少し走っただけで頰を赤く染めて、息を切らせていた。その頰に触れると、くすぐったそうに顎を引く。そのまま腕を伸ばし抱き寄せると、驚いてぎこちなく服を掴むのだ。そしてカカシは彼女の香りを身体中で味わう。
先生が築こうとしていた家族は。オビトがリンに抱いていた感情は。割れ物でも抱えるようにして牡丹を抱きしめながら、もうしばらくそっちには行けそうにないと、思う。
良かったねという声と、邪魔だから絶対に来るなという声が、聞こえた気がした。
墓石の上で、薄桃色の花が風に揺れていた。