第1章 嫁入
話でもしよう、その切り出し方は、間違ってはいなかっただろうか。彼女はふと息を吐いた。強張っていた肩も少し和らぐ。何とも分かりにくいが、少し安心してもらえたのだろう。カカシと同じ色の長い髪が、暗闇に揺れた。
「何か、聞いときたいことって、なーい?」
笑ってみせると、少し目を見張って、見つめ返される。よく見ないと違いが分からないような表情の変化は、まるで小動物を見ているようでむず痒い。
「半年前、木ノ葉の忍に護衛を依頼しました」
やっと言葉を紡ぎ始めた牡丹の手は、膝の上で少し震えていた。
「あの時、女性の忍が、私に声をかけて下さったのです。"木ノ葉に来るのなら全力でお守りします。だから怖がらないで" と。その方にはお会いできませんか」
半年前の護衛というのは、カカシが隊長を務めた、暗部の任務だ。暗部が担うには随分と低ランクだと思ったものだ。
「見つけるのが難しければ良いのです。忍にも優しい方がいらっしゃるのだなと驚いて」
あの任務にいた女性は一人しかいない。天然の人誑しな部下に、そういう話は祝言の前に報告して欲しいものだと、心の片隅で悪態をついた。
「あ〜アイツ、そんな事、言ったの…いや、今は立て込んでて忙しいハズだからすぐには呼び出せないけど…そのうち、ね」
そう声に出してみると、牡丹の目尻が少しだけ下がる。どうやら喜んでもらえたのだろう。
そういえば、女性と言えば、身の回りの世話をする人も揃えなきゃね…お姫様に掃除させられないし…あぁでも敬語は止めて貰いたいなぁ…
どこからか、言葉になって漏れていたようで、はい、と返事が返ってきた。敬語はなかなか、止めてはもらえなさそうだ。