第6章 案山子
ひと時ほど休息を経て、カカシは徐に執務室へ戻って行った。綱手はため息で見送り、甘ったれめと憎まれ口を叩いているが、基本的には好きに過ごさせる方針らしい。一度だけ、首根っこを捕まえて窓から放り投げたことがあり度肝を抜かれたが、お互い特に変わった様子もないので、彼らなりのスキンシップと思うことにした。
「私、カカシ先生のこと、あまり知らなかったのかも」
カカシの背中も見えなくなった頃に、私が知ってる先生と違うと、サクラが零す。
「いなくて当たり前だった家族が急にできたんだ。いなくならないか不安で、正体不明なだけだろ」
ため息混じりの綱手の言葉に、心がズシリと音を立てる。いなくて当たり前になる程の時を、ひとり過ごすのはどれだけ淋しいことだろう。そして、周囲から恨まれ疎まれる父などいなければ良いと思ってしまう自分とは、どちらが辛かろう。比べるだけ無駄な不幸を数えるのは、止めにしなければ。
「私、カカシさんのこと、全然知らないんですね」
どうやって生きてきたのか。どんな人たちと過ごしてきたのか。何を見て、何を感じたのか。
綱手とサクラが目を見合わせて、それぞれ父親のこと、親友のことなら少しは話ができると言い合わせた。