第6章 案山子
牡丹が歌う時、彼女に触れていると、本当に気持ちが良い。エネルギーに満ちた風の中で、朽ちた体に命を吹き込むように、カカシを蘇生させる。写輪眼を使った後に牡丹がいたのなら、どれだけ助けられたのだろうと、空虚な妄想に取り憑かれそうになる程に、それは魅惑的な癒しだった。
どんなに医療忍者を育てても、病院を整えても、忍の里である限り殉職者は絶えない。それは誰が火影であっても変わらぬ理だ。ただ、カカシがそこにいる限り、痛む心や悲しむ気持ちを、抱えていかなければなければならないと、考えていた。親友ならそうしていただろう。
「シカマルを呼んで、バカカシを回収させろ!」
こんなに弱ってる俺に向かって、酷いよね。そう甘えると、彼女は笑ってくれる。カカシが消耗している時に歌声が聞こえるようになったのは、偶然ではないはずだ。
酷い任務だった。最初に派遣した小隊が全滅した後、依頼主に確認に行った中忍を人質にして、金を叩きつけて暗部を追加させ、半数が罠に掛かった挙句、その依頼主が自害。やり切れない思いを燻らせていると、シカマルが追い出してくれた。
依頼主は憎い。しかし忍ならば死と隣り合わせなのは当然であって、殺さなければ殺される。こんな感情を抱えたまま、牡丹に触れていていいのだろうか。それでも触れていなければ、彼女は消えてしまいそうな気がした。