第6章 案山子
牡丹がアカデミーの教務と訓練に慣れてきた頃、綱手からの急を要する依頼も増えた。緊急の手術に必要だとか、罠に掛かった患者に大量に投与した結果足りなくなっただとか、牡丹を駆り出す計算で物事が進んでいる事が、恨めしい反面、嬉しくもある。
忍として里のために働いてみないかと、綱手からの要請が入った時、牡丹は一切の迷いもなくその手を取った。牡丹がひとりの人として生きるための意志をくれた、里の根幹である忍として務めることができるのなら、喜ばしいことだと思った。それが例え命を削る可能性のある選択肢だとしても、ただ生き長らえるよりも、心に従う生き方を選びたかった。
「休憩は終わりだ」
ソファで鼻歌を歌いながら、アカデミーの法律書を訂正する牡丹の前に、綱手が仁王立ちをする。
「おい、サクラ。シカマルを呼んで、このバカカシを回収させろ!」
綱手は牡丹に凭れて狸寝入りをするカカシを指差しながら、薬品の調合を進めるサクラに、背中で怒号を飛ばす。
あっちには影分身がいるから、本体は休ませてくれって、シカマルが言ってましたよ、と一刻前のやり取りを説明するサクラの声は優しかった。