第5章 その声はまるで
綱手の一声で霧散した自然エネルギーと共に、牡丹のチャクラの濃度が急激に薄くなる。風と共にかき消えてしまいそうな感覚に、思わず牡丹の身体を受け止めた。触れると華奢で壊れてしまいそうな彼女の、儚さの正体を見た気がして、カカシは警告の言葉を投げかけてみる。しかしその返答はあまりに扇情的なものだった。
「なんだかとても気持ち良い」
そのまま目を閉じてしまった彼女に、返す言葉を見つけられないカカシは閉口してしまう。これは傑作だと笑う綱手の能天気さが羨ましい。
「このまま連れて帰ります」
何とか絞り出した一文に、ユリは追い討ちをかけるように、両手を前に出して抱える動作で仰せつける。
「六代目、こうだ、こう。おんぶなんて無粋な真似はしてくれるなよ」
無粋ってお前ね、と軽口を叩いてみるものの、牡丹に触れる体の熱さは異常だった。死んだ魚のような目でこちらを見てくるテンゾウをそっと視界から省いて、窓の結界を打ち壊す。あとはよろしくと言い置いて、カカシは窓から逃げ出した。これ以上晒し者になるのはごめんだと、瞬身で帰路に着く。
部屋には変わらず、綱手の笑い声が響いていた。