第5章 その声はまるで
陣の中で印を組む牡丹の動きは酷く緩慢で、その印を教授するユリの動きもまた、随分とゆっくりしたものだった。
印を見る限りでは、床の陣と合わせた解放の術か。封印とは逆の手順で術者の本来の能力程度を、引き出すことができる。つまり、印や陣は補助にすぎない。綱手が確かめようとしていた特性は、詩を奏でる声か。
四季を詩うにつれて、彼女の周囲の草花も、まるでその時を過ごしたかのように移ろっていく。
「珍しい能力ではあるが、滅多にいないというほど少ないものでもない」
綱手は面白いものでも見るように、カカシに説明した。
「草木に好かれる体質だ。満月や新月生まれに多いと聞くがな、牡丹の声に薬草のエネルギーが集まりやすくなっているようだな」
そうやって集まった力を、ユリが仙術に変換してテンゾウに送り込む。そしてテンゾウはその力を薬草に注ぎ成長を促す。成長した薬草は更に牡丹の周囲に集まるという、無限の循環が行われていた。
「その結果がこれですか…」
進化を促すような増幅の循環と、充満する薬草の香りに目眩がして、カカシはマスクを手で覆う。牡丹の能力がさして珍しくないものでも、テンゾウやユリと共に使うことで、二つとない結果を生み出していた。
「他里にはしばらく黙っておいてくださいよ」
カカシが差し出した酒を、綱手がそうだなと言いながら受け取った。