第5章 その声はまるで
「えっまだ帰ってない?」
自宅に遣わした忍犬の報告に、カカシは思わず声を上げた。綱手の呼び出しで、暗部と共に牡丹が出たのは今朝早く。カカシが帰らないことはままある家でも、牡丹が帰らないことはなかった。ましてや日も暮れて久しい時間だ。
様子を見て来るかという忍犬の問いに、カカシは首を振った。腹心の部下に綱手まで付いていて、何かあるとは考え難い。
「自分で行くよ」
丁度、綱手とも話をしたいと思っていたところだ。病院の中に作った一室で、綱手が薬草の研究を指示していることは耳に入っている。植物と共振できる部下たちが駆り出されるのは納得の采配ではあるが、それと牡丹に何の関係があるのだろう。
病院に向かう道すがら、綱手への貢物として酒を仕入れていく。以前、物のついでに顔を見せた折に、手土産はなしかとどやされたのは、記憶に新しい。
研究室は何やら厳重に結界が張ってあったので、ノックの代わりに一枚ずつ解除していく。最初こそご丁寧に張り直してみるものの、埒が明かないので、適度に半分は破壊した。どうせ張り直すにも、中の人間の方が早くて正確だ。
カカシが最後のドアを開けた時、目の前に広がっていたのは、鬱蒼とした草原だった。