第4章 副章
イルカが初めて牡丹を目にしたのは、陽射しの暖かい昼下がりだった。彼女は、アカデミーも昼休みという頃に門前にできた人集りの中、物珍しそうに人々を眺めていた。
牡丹の目に、彼らはどう見えているのだろうかと、不安になった。政略結婚だと割り切ることもできるだろうが、縁あって夫婦となったからには、せめていがみ合う仲であってほしくない。興味本位の野次馬が、諍いの火種とならぬことを祈るばかりだ。
カカシからアカデミーへの依頼が届いたのは、それからややあってからだった。表向きは教務の視察、内実としては牡丹の実務訓練。
彼女は少し不安そうな顔でアカデミーにやってきた。それはまるで初等部の生徒のようで、イルカはその不安を少しでも取り除ければと、できるだけ笑顔で話しかける。すると牡丹は、不思議そうに、そしてどこか驚いたように瞬いた。
「忍の方たちが、そうして笑った所を、見たことがなくて。カカシさんも、護衛をして頂いた面の方たちも」
恐らく彼女は、忍としての集合体を見ている。個々の人間として認識するのは、時間がかかるだろう。
「大半は、もっと普通なんですよ」
牡丹にはまだ見えていないのかもしれないが、きっと、カカシやその暗部たちも、もっと普通に笑うはずだ。しかし彼らは自分よりも、その機会が圧倒的に少ない。