第4章 副章
「俺ってそんなに恨み買ってたかね」
そう言って頭を掻くカカシには、本当に心当たりがないらしい。観察報告を済ませていると、結界が破れる感覚に襲われる。牡丹を護衛する部下が、いつも使う結界術だ。同じ様に、感知結界の異常を察したカカシと共に、部屋へと向かった。
しかし部屋の手前から、無情な程に張り巡らせられた結界に、足を止める。足の踏み場がないのだ。背後から、蟻地獄だなというカカシの尤もな感想が聞こえた。
「お前さえいなければ…」
牡丹に向けられた憎しみの言葉が耳に付く。聞いていて気分が良いものではないが、このまま結界に落ちることを待つのが順当か。
「あなたが私よりも妻に相応しいと言うのなら」
テンゾウの予想に反して、牡丹は女と対峙している。案外度胸が座っているのかもしれない。
「私を殺しなさい!」
最後は、殆ど叫び声に近かった。その声を聞くや否や、天井裏に潜んでいた部下が、結界の隙間から牡丹の元へとカカシを投げ飛ばす。うまいものだなという部下への呑気な感想と共に、牡丹への評価が塗り変わったように感じた。啖呵の切り方は、悪くない。
テンゾウは、部下に女の確保を指示しながら、カカシと牡丹を眺めていた。