第1章 嫁入
はなみ牡丹
カカシはそう書かれた釣書を、ため息と共に山積みの報告書の上に乗せた。してやられた、 という言葉が脳裏に浮かぶ。
思えば最初から仕組まれていたのだ。火影の引き継ぎと同時進行された大名の護衛は、なぜか暗部として派遣された。特に大きな事件もなく終えたその仕事は、何の手応えもなかった。それもそのはずだ。その仕事は護衛ではなく、五代目からカカシへの気遣い。
その娘が気に入らなければ、断ってもいいんだぞ
五代目・綱手の言葉が耳に残っている。
死んでいった仲間たちに顔向けできないというのならそれでもいい。ただな、大名の娘なんぞ、お前の地位と結婚しに来るようなものだ。お前も大名の金を手に入れ木ノ葉に貢献するくらいの気持ちで構わん。相手が良ければ、そのうち家族の情くらい湧くだろう。
「情、ねぇ…」
溢れた声は、あまりに情けない。窓から聞こえる歓声が近付いてくる様が、何かのカウントダウンもかくやと思える始末だ。御一行が到着したとの報告に、重い腰を上げた。
無駄に豪華な輿の扉が開けられると、カカシは手を差し出した。透き通りそうな程に白く細い手が、カカシの手を握る。
見目麗しく、実家に金がある女が、何だってこんな隠れ里に嫁いで来るのか。彼女の、あまり笑わない、消え入りそうな表情を、何と形容したら良いのだろう。図太く生きていかなければ心が壊れそうな世界で、彼女はあまりに儚く見えた。