第3章 心の風景
「カカシさん!」
牡丹はそう名前を呼んで駆けつけて来た。そのいつにない様子に、カカシは面食らって動揺を隠せない。
「食事のお誘いを受けました」
明日の夕食は外で済ませてきますと述べる彼女の頬は紅潮していて、感情の高揚を表していた。これが娘だというのなら、いつかくる日がやってきたかと覚悟を決めるべきなのだが、 誓ってこれは娘ではない。妻だ。
大きな違和感とちょっとした嫉心に苛まれながら、誰にと問う。一瞬で、里中の様々な顔が頭を巡ったが、彼女の返答はそれを飛び出してきた。
「砂の里の、テマリさん!」
そういえば今朝顔を見せたなと、カカシは色々な感情に塗れたため息を吐き出す。お友達ができたんですと、嬉しそうにアカデミーで出会ったテマリの様子を話す彼女に、良かったねと返事ができた。
「私、お友達っていなくって」
そうはにかむ牡丹に合点する。彼女は木ノ葉に来てから、どこかに連絡を取ることも、出かけたこともない。今度は紅でも紹介しようかと、同期の顔を思い浮かべた。
息を弾ませる彼女はいつもより饒舌で、どこか消えてしまいそうな儚さは息を潜めていたから、手を伸ばすと触れそうな気がした。頭をそっと撫でてみると、牡丹はカカシを見て笑った。