第7章 アルバイト
やっと納得したのか頷いたリエーフさんが私の手を両手で握る。
「彼氏いないんだったら、俺なんてどうっすか?立候補させて下さい!」
顔をぐっと近付けて、告白されたようだ。
出会って数分で何を言ってるんだ、この人。
呆れてものも言えない、とはこの事か。
「リエーフ!」
近付いていた顔が若干下がった。
どうやら黒尾さんが思い切り頭を叩いたようだ。
「クロ、モデルの顔に傷付けたらどうすんの。」
私を助けようとしてくれたらしいが、きとりちゃんに怒られていた。
手は衝撃で離されたけど、リエーフさんの顔はまだ近いまま。
「後でケータイ教えて?」
耳の近くで、こそっと言ってから離れていった。
それから数分もしない内にリハーサルがあって、少しの休憩。
リハーサル中に歩き方のコツとか聞いたから、なんとかバージンロードで転ばずに済みそうだ。
用意された椅子に座って手順を反復していると、隣に気配。
「リエーフさん。」
真横に座ったその人は、手にスマホを持っている。
「私、今は携帯持ってないので番号を口で言って良いですか?ワンギリしておいて下さい。」
この手のタイプは、断った所でしつこいのは分かっている。
なら、無駄な拒否はせずに早く教えた方が効率が良い。
手早く済ませる為に口頭で番号を伝えた。
別に彼に興味がある訳でもなく、話もせずに時間を過ごす。
「…見学希望者さん、全員入りましたー。本番です。モデルさんスタンバイお願いします。」
スタッフの声が聞こえて、リエーフさんと同時に立ち上がった。