第7章 アルバイト
少し待っても立ち上がらないので心配になって近付く。
お腹辺りが締め付けられてしゃがみづらく、スカート部分を右手で少し上げて、変な中腰で黒尾さんに空いた左手を伸ばした。
その手をすぐに掴まれて、指の根本に唇が添えられる。
「…この指、俺に予約させて?」
摘ままれたのは薬指。
プロポーズのようなその言葉に驚いて目を瞬かせた。
いつも通り拒否するのは簡単だ。
でも、黒尾さんを傷付けるかもしれない。
答えきれずに迷っていると、控え室の扉が開いてきとりちゃんが戻ってきた。
手には紙の束を持っている。
「…あ、イイトコ邪魔した?」
私達の状況を見て呟かれた声に思い出したように手を振って黒尾さんから逃れた。
「そんなんじゃねぇよ。」
あっさりと否定を返して立ち上がる黒尾さん。
冗談だったのかな。
少しでも真剣に考えた自分が馬鹿馬鹿しくなった。
「そう?あ、クロはスタッフ側で私と行動してね。給料出ないけど。」
「コキ使わないで下さいよ、センパーイ。」
「一人で挙式見学したいなら良いよ。」
「…いえ、そちら側にいかせてイタダキマス。」
二人のやり取りを見ていると、さっきのはなんだったんだ、とさえ思う。
釣り合いの取れた背丈も、仲良く喋るその姿もお似合いだ。
なんで、この二人は別れたんだろうか、と興味が湧いた。