第7章 アルバイト
そんな期待はすぐに裏切られる事になる。
「悪いけど、彼女と待ち合わせなんだよ。」
女の子の隙間を抜けて私の元に来た黒尾さんは、ごく自然に肩を抱いてきた。
「俺と遊びたかったら、このコ以上になってから来いよ。じゃーな。」
最後に嫌味な台詞を吐いて、そのまま歩き始める。
刺さるような視線が後ろから向けられていたけど、ドキドキしてしまって気にならなかったのは内緒だ。
改札で一度は離したものの、電車での移動中も何故か肩に腕が回されていて。
黒尾さんは一言も喋らず、私をチラチラと見ていた。
「あの、カップルのフリは会場だけで良いと思うんですが。」
目的地の最寄り駅で、また離れた腕が回されそうになって制止する。
黒尾さんは残念そうに舌打ちしたけど、諦めてくれたようだ。
会場に着いて予約者名を告げるとプランナーさんに案内されて、丸テーブルと椅子が沢山ある部屋に通される。
席に着いて色々と聞かれているけど、本当に結婚する訳じゃないから気のない返事だけを返していた。
そんな時、突然カバンの中に入っていた携帯が震える。
取り出してみると相手はきとりちゃん。
プランナーさんに断りを入れてから席を外して電話に出た。
『アンタ、今ドコ?』
声が焦っているように聞こえる。
「プラン打ち合わせの部屋っぽいトコ。どうかした?」
『すぐ行く!待ってて!』
それだけで電話は切れた。
私は一応、席に戻って黒尾さんの隣に座り直す。
「誰だった?」
「きとりちゃん。なんか、すぐ来るとか言ってました。」
黒尾さんと会話をしている最中、開いた部屋の扉からきとりちゃんが登場した。