第6章 伝える
‐赤葦side‐
正直、安堵した。
自分から言い出したとはいえ、一緒に住むのは無理だ、とりらに言われたら。
何年も時間を費やして、やっと手に入れた立場を失う所だった。
でも、もう大丈夫。
彼女の性質は俺もよく知っている。
意地っ張りで、意外に頑固。
自分の口から出した、一緒に住むのが嫌ではない、の言葉は鎖になる。
少なくとも、彼女に追い出される事はない。
4人で囲むテーブル。
朝食を口にしながらりらを眺める。
視線を感じたのか、こちらを見たりらと目が合った。
疑問を行動で表すように首を傾げている。
知られてはならない。
お前をずっと観察してたんだ、なんて気付かれてはいけない。
首を緩く横に振って、何でもない、を示した。
「なーにアイコンタクトしてんだよ。」
隣から降ってくる黒尾さんの声。
人前だというのに、りらを気にする仕草をしてしまった。
この人は勘が鋭いから、気を付けないと。
「別に、ただ目が合っただけですよ。」
「…ふーん?」
納得していない、疑いを持っている目がこちらに向いている。
「抜け駆けなら、しませんよ。」
今のところは、と続ける声は飲み込んで。
りらを見る事は止めにした。