第6章 伝える
嬉しいからってお礼を言えば良いのだろうか。
赤葦さんからしたら意味が分からないと思うけど。
「有難うございます。」
ほんのちょっとだけ考えて、少しでも自分が変わるように、嬉しい気持ちを素直に言葉にした。
伝える事が大切なんだと分かっているから、慣れなくても思った事を口から出す。
振り返って顔を見ると案の定、不思議そうに私を見ている。
気付いてくれて嬉しかった、と説明しようと口を開いた時、また扉が開いた。
今度は黒尾さん。
この二人は朝に強いんだろうな。
昨日も早く起きてた人達だ。
「「お早う御座います。」」
「はよ。…木兎、部屋にいねぇんだけど。」
赤葦さんとほぼ同時に挨拶して、返ってきたのは挨拶だけじゃなかった。
「木兎さん、私の部屋にいますよ。」
やましい事はなかったから平然と話したけど、私に向いたのは軽蔑を含んだ冷たい視線。
「…ヤったの?」
「してません。」
確かに昨日のあの話の後じゃ、こういう事に対して私の信用はないのは分かっている。
だからといって、今の発言は木兎さんまで疑った言葉で、許せなかった。
「私を軽く見るのは、自分の発言や考え方が普通じゃないって分かっているから構いませんけど。
木兎さんを軽く見るのは止めて下さい。」
わざと、笑顔を作った。