• テキストサイズ

【HQ】sharing.

第5章 添い寝


そこまで話して口が止まった。
後は、あの日の苦い思い出を話すだけなのに。

駄目だ。
やっぱり話せない。

私が酷い言葉を吐いたのは事実だ。

そこまでは、滑るように思い出を語った私が止まった事を不思議に思った木兎さんがじっとこちらを見ている。

腰に回されていた手が離れて目元を触られて泣いていた事に気付いた。

「泣くな。話せ。…木葉を必要ないって言った意味を。」

声が怖い。

それよりも衝撃を受けたのは、木兎さんが私の吐いた最低の台詞を知っていた事だった。



あの日、卒業式の日。
式を終えた木葉さんは私の所に来た。

約束もしていなかったのに、いつもの非常階段に現れた。
私も少しだけ期待してて、そこで待っていた。

「熊野、これ。」

渡されたのは木葉さんのネクタイ。
何と返せば良いか分からなくてずっとそれを見てた。

「俺な、就職決まって、時間とか休みとか合わせ辛くなるけど…卒業しても、これからも熊野と会いたい。」

素直に嬉しかった。
ただ、私は答え方を間違えた。

「必要ないです。」

思えばこれ以上に酷い言葉はない。

「…そっか。元気でやれよ。」

顔を上げて木葉さんを見ると苦しそうな顔で、それでも笑ってた。
私の頭をぽんっと一回だけ軽く叩いて、走っていってしまった。

口が下手過ぎる自分が嫌になった。

就職したばかりの忙しい中で、無理して時間を作って貰う必要ない。
休みの日は休んで欲しい。
本当に時間が空いて、辛くない程度で会いたい。
私の為に無理なんかして欲しくない。

そう言いたかったのに失敗した。

弁解しようにも連絡先も知らなくて、なんとか知っていそうなバレー部の人を見付けても、いきなり声を掛ける勇気は無かった。

そのまま時間が流れて、誤解は解けないままで現在に至るのだ。
/ 577ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp