第5章 添い寝
夏休みの少し前。
突然、木葉さんが言い出した。
「休み入ったら熊野と飯食えなくなるな。」
「そうですね。」
深い意味はなくて、ただ事実を口にしただけの可愛くなかった私。
「そういや、夏休み中に部活の合宿あんだけど。これがきつくてさ。
朝から動いてるから腹はいつも以上に減るし、昼の後は晩飯の事ばっか考える訳よ。食ったばっかなのに。」
木葉さんは話を変えて笑ってた。
いつもの通り、私が返さない一方的な話のつもりだったんだろう。
「…木葉さん、合宿はいつですか。」
「…え?」
私が話を続けようと返答したのが珍しくて、驚いた顔をしたのを今でも忘れていない。
「合宿の、休み時間は何時ですか。」
「…なんか、作ってくれんの?」
嬉しそうに顔を緩めて、耳まで赤くなっていたのも忘れてない。
「その時間に校門まで来て下さい。」
そんな話をしている内にチャイムがなった。
昼休みが終わるのをあんなにも惜しく思ったのは初めてだった。
翌日、木葉さんは合宿の日程表を持ってきた。
それを手帳にメモして、合宿の日は沢山の差し入れを持っていった。
スポーツをやる男の人の食べる量なんて分かっていなくて、大量過ぎたと今では思う。
木葉さんは自分だけへの差し入れじゃないと思って落ち込んでた。
その時は、落ち込んだ意味が分からなかったけど。
赤葦さんの話でやっと分かった。
だから、木兎さんや赤葦さんが私の料理を知ってたんだろう。
夏休みが終わると、また毎日のように非常階段でご飯を食べる日々が始まった。
そんな中で、試合を観に来て欲しいと言われて行った。
梟谷の応援の席には、気迫に押されて近寄れなかったけどずっと観てた。
春高が終わって、バレンタインは恥ずかしくてつい義理だって嘘までついた。
三年生がわざわざ、その日に学校まで出向いてくれたのに…。