第5章 添い寝
掴んだ手を引っ張って布団の中に引き摺り込もうとする。
でも、力の差は歴然でびくともしなかった。
「…添い寝、して貰えませんか?」
木兎さんは驚いて私の手を振り払う。
「そういうのはしねぇって話したばっかだろ。何考えてんだよ。」
確かにそうだ。
でも、そういう意味じゃなかった。
私は甘えたいだけで、そんな事をしたい訳じゃない。
「…どう言えば良いか分からないです。」
「言いたい事は言え!そんなんじゃ俺、バカだから分かんねぇよ!」
自分で言いやがった。
呆れもあってぽかんと口を開けてしまった。
「何で、俺と一緒に寝たいんだ?理由は聞くし、場合によっては添い寝だけしてやるから、な?」
また優しく頭を撫でられる。
眠気が戻ってきて、そのまま寝てしまいそうだ。
「…甘え、たいんです。きとりちゃんと喧嘩みたいになって淋しい。
私が普通じゃないって、自分の考えが変なんだって分かって…。」
「そうだな、アレはもう止めた方がいいぞ。」
人が慣れない思ったまま喋る事を真剣にしているのに、なんで口を挟むんだこの人は。
甘えたい気持ちは無くなって、溜め息を吐いた。
ついでに眠気も呆れて覚めた。
「…よっ、と。少し詰めろよ。狭い。」
何故か、木兎さんが布団の中に入ってくる。
先に中にいた私を少し押して端へと追いやった。
意味が分からない。
「分かってんだろ?自分が間違ってるって。じゃあ、甘えさせてやる。」
今更いらないとは言えず、そのまま布団の中で向かい合った。
腕が私の首の下を通って肩を抱くようにして引き寄せられる。
もう片方の腕も腰に回っていて、抱き締められる格好だ。
さっき、狭いって言ったばかりなのに寄るって何を考えてるのか分からない。
それを口に出す事は出来ないけど。
「…なぁ。少し聞いて良いか?」
控えめな問い掛けに頷いて答えた。
「りらちゃん、恋ってした事あんのか?」
「…ありますよ。」
今からすれば少し前の話。
貴方も知ってる人。
あまり喋らない口下手な私と一緒にいてくれた人。
思い出して笑うように目を細めた。