第5章 添い寝
叩かれた理由が思い浮かばない。
理由が分からないから、謝れば良いのか、やり返せば良いのかも分からない。
目の前には木兎さんから離れようと暴れてるきとりちゃんがいて、落ち着けよ、と黒尾さんが宥めていた。
それを眺めながらどう対応しようか考えている。
「…叩かれるような事をした覚えがない。」
いくら考えようと答えが出ず、それを求めて口を開いた。
皆が固まったのが分かる。
理解出来ていない私だけ、取り残されている。
やっと空気が動きだしたのは、きとりちゃんが諦めたような、呆れたような長い息を吐いた時だ。
力任せではなく、ゆっくりと木兎さんの拘束から逃れて私の前に座る。
「アンタの貞操観念って、どうなってんの?」
「質問の意味が…。」
分からない、と言い掛けて叩かれた理由にいきついた。
「…何時までも清い少女のまま、なんて無理だよ。そんなもの、ドブに捨てた。」
言葉を切り換え真っ直ぐに目の前の人の目を見て、はっきりと答える。
「…そう。私がいない間に、この家の風紀を乱したら許さないからね。」
きとりちゃんの方も、はっきりとした、冷たい声で返してきた。