第38章 キスという手段
コンビニで食事を買って帰る最中、私のスマホが音を立てる。
相手は、折り返してきただろうきとりちゃんだ。
電話には出たけど言う事が出来ない内に、彼女から嬉しい報告が飛び込んでくる。
それによって、半年だけ待って貰うと決めて話をしていたのに、何故か怒られてしまって苛々したまま電話を切った。
一部始終を聞いていた2人も、何故か呆れ顔である。
「…りら、この期に及んで両方を取る良いとこ取りしたら月島がまた怒るよ。」
「…だな。月島は選ばれたいんだから、後回しにされたと分かったら機嫌悪くなんのくらい分かるだろ?」
2人の言う事は、分かる。
両方を取りたいのは、私の我儘だ。
どうすれば良いのか、分からなくなってしまった。
私が考え込んだから、静かになった帰り道。
またスマホが音を立てた。
今度は黒尾さんのだったけど、その画面を見るなり彼は優しく笑った。
話している内容を聞いていると、相手はどうやらきとりちゃんのようだ。
私の事を相談されているのが分かる。
「…なぁ、りら。お前、月島を選べよ。」
電話を切るなり、優しい笑顔をそのまま私に向けてくる。
「俺が、あの家でセンパイを迎えたいんだ。たまには、こっちの我儘聞いてくれても良いだろ?」
「何故ですか。」
何で、こんなにも幸せそうな笑顔で言うのかは分からなかった。
「俺さ、センパイのコト、今でも好き。あの人以上の女、いねぇんだ。今、確信したわ。
りらと月島の事でケンカしたんだから、月島に電話でもするかと思ったが、あの人は一番に俺を頼ってくれた。それが、嬉しい。
俺がおかえりを言う役目を貰えるチャンスをくれよ。」
言葉を信用するには、その顔だけで充分だと思える。
「はい。黒尾さん、きとりちゃんを、お願いします。」
はっきりと頷いて、自分の中での覚悟が決まった。