第38章 キスという手段
翌日。
私の帰りたい発言も、やっぱり無かった事にされていて。
朝から2人で荷造りの作業をする。
交通費出したんだからって恩着せがましい事を言われて、車に荷物を積むまで、しっかりと手伝わされた。
その上、帰りは実費で新幹線を使うと言ったのに…。
「そんなのに使うお金はあるんだ?昨日の食事だって一円も払わなかったのに?」
それは、蛍の先輩方が払わせてくれなかっただけなのだけど。
言い訳だと返されるだろうから、黙ってしまう。
その隙に、車に引き摺り込まれて、一緒に東京へ向かう事になった。
数時間に渡る長旅だというのに、道中の会話は無く。
東京の蛍が暮らす事になるマンションに着いた頃には、気疲れで眠気が凄まじかった。
でも、これから荷解きを手伝わされるのも分かっているから諦めようと思ったんだけど。
「こんな時間から、エレベーター何往復も出来ないデショ。明日、引っ越し作業するから養生して貰えるように頼んでるし、荷物は車に置いてくよ。」
有難い事に、本日のお手伝いはここで終了らしい。
やっと解放された。
どうせ、明日も手伝わされるのだろうけど、今日は休める。
「また明日。」
明日の予定も聞かずに帰って驚く事を、この時の私は知らず。
挨拶だけをして、早々に自分の住む家に戻った。