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第38章 キスという手段


今すぐ、東京に帰りたい。

蛍は頭が良いから、私が本当に嫌がる事は察して避けてくれてた。
それなのに、嫌いだと宣言していた言葉を使わせる程に怒らせた。

何が悪いのか分からなくて、謝る事も出来なくて。
帰りたいより、消えてしまいたいのが本音だ。

でも、この時間から東京に帰るなんて不可能な事だと分かってる。
どうしようもない現実に涙が溢れた。

歪んだ視界が、突然の暗闇に覆われる。
目元が温かくて、目隠しされているのが分かった。
続いて、唇に柔らかい感触が当たってすぐに離れる。

「君を泣き止ませるの、これが一番早いから。」

目隠ししていた手が外れて開けた視界。
確かに涙は止まって、ちゃんと見えるのは間近にある蛍の顔。

何をされたかは、分かる。
だけど、こんな事を恥ずかしげも無くする人だったかな。

「ここ、外。」
「だから?」
「蛍は、こんな事しない人だと思ってた。」
「りらが泣かなかったらしてないよ。…ほら、行くよ。」

私が泣いた原因くらいは分かっているだろうに、それについて謝る事も無く。
どうして、あの言葉を使ったのか説明がある訳でも無く。
その一連の話自体を無かった事にされた。

話を戻すなんて出来なくて、従うままに歩いて着いたのは小さな居酒屋で。
そこには、蛍を知っているらしい人が沢山居た。

話を聞くと、どうやら高校時代のチームメイトだった人達のようだ。
蛍の栄転の祝いに駆け付けてくれたらしい。

仕事では敵が多くても、こうやって祝ってくれる仲間もちゃんと居る。
それを、ちょっと悔しいと思ってしまうのは、私が唯一の存在になりたい、なんて傲慢な考えの表れ。

知っている話が殆どない居心地の悪い中で数時間を過ごして、蛍の実家に戻ったのは深夜の事だった。
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