第38章 キスという手段
そうこうしている内に、思ったより早く本人が帰宅してくる。
「おかえり。」
「…ただいま。」
「早かったね。」
「周りの僻みやっかみが五月蝿かったからね。二次会抜けて帰ってきたよ。」
「そう。お疲れ様。」
あ、やっぱり敵は多いんだ。
その若さで本社勤務なんて栄転だろうし、何と無く会社での様子も想像出来るし、仕方ないかな。
先程の予想が当たっていた事を示す言葉に労いの声を掛ける。
嫌な事があったなら愚痴ってくれても構わないけど、それも多分しない性格だろうから、それで話を切った。
蛍は帰ってきたというのにスーツも脱がず、座りもしない。
ただ黙って、扉の横に寄り掛かっていた。
「着替えないの。」
「また出掛けるのに着替えるのは無意味デショ。」
「…は?」
「りら、ご飯食べてないんじゃない?ほら、行くから出て。」
気になって話し掛けると思ってもいない言葉が返る。
確かにご飯は食べてないけど都内じゃあるまいし、この時間までやってる店は少ない。
蛍はお酒も飲んでるだろうから車は出せないし、何を考えているんだろうか。
思考を巡らせている内に腕を掴まれて、半ば引き摺られるように外へと出た。