第38章 キスという手段
あの感じだと社会人としては敵も多いんじゃないだろうか。
流石に全部の仕事を人任せにはしないだろうけど。
自分がやらなくていいものに関しては、そちらがやった方が早いと思いますのでー、とか上手く人に押し付けていそうだ。
今日は会社の送別会らしいから、そういうのをチクチク言われてそうで心配だ。
うん、数倍返しして更に敵を作らないかが心配。
余計な事を考えながら作業をして数時間。
衣類なんかの片付けが終わったから、次は棚にある小物類を詰めようと目を向けた。
恐竜の置物とか、バレーボールとか、本人の趣味らしいものが飾られている場所。
そこの真ん中の部分に、1つだけ違和感のある物が乗っている。
小さな紙袋。
それは飾ってあるようには見えず、中身を覗いた。
中には、手のひらサイズの白い布製の箱。
‘for you’と見慣れた文字が書かれたカードが乗っている。
多分だけど私宛の物だろうから、箱を取り出して中を確認し、すぐに閉じた。
指輪だったから。
私がいくら馬鹿でも、人の感情を読めない人間でも。
断られた時の事を考えて、直接渡したりしない彼の性格や、私達の関係、年齢。
そういうものを考えた時、これを贈ろうとする意味は予想出来てしまう。
本人が渡してこないのは、まだ受け取る事をしたくない私にとって好都合な事だ。
中身には気付かなかったフリをして、棚にあった他の物と一緒に段ボール箱の隅へと入れた。