第37章 約束
守れない約束をしたつもりはない。
だけど、これは守らなくていいものだ。
「きとりちゃんが戻ったらって約束は、守れなかった。そこはごめん。」
私は、一分一秒でも早く京治のものになりたい。
気持ちを示すように両手で箱を包み込んだ。
「謝んないで良いよ。俺は、俺を選んでくれて嬉しい。有難う。」
京治が、とても綺麗な顔で笑っている。
このまま触れ合いたい思ったけど、このタイミングで黒尾さんの存在を思い出した。
その人が居る筈の扉の方に目を向ける。
そこに居た人は、わざとらしく顔を逸らした。
「何も見てマセン。なんかすんなら、とっとと済ませろ。」
「しません。」
他の人が居ると認識すると甘い空気は消え失せて、手の中の箱を確認するように開ける。
中身は指輪じゃなくて、小さく折り畳まれた紙だった。
それを開くと婚姻届と印刷されていて、気が早すぎると突っ込みたくなる。
「りらは、指輪とかしないでしょう?料理するなら、邪魔だろうしね。」
でも、それは私の事を知った上でのもので。
喜びを表すように椅子から降りて、京治の膝の上に座った。
知り合いの前だとか、気にしない。
今の私には京治しか見えてない。
私の未来は全て京治にあげる。
だから、京治の全てが欲しい。
その気持ちは伝わったようで、私を見詰め返してくれる。
お互いに、周りなんか見えなくなって、そのまま唇を重ねた。
‐end.‐