第37章 約束
‐赤葦side‐
りらが帰ってすぐに黒尾さんが訪ねてきて、有無を言わさずこの家に連れて来られた。
りらと話し合いでもさせる気かと思ったけど、扉の前で黙って待つよう指示されて、全部の話を聞いていた。
きとりさんが帰るのが分かっても迷っていたのは、りらの心に、まだ木葉さんが居て。
未練を残したままじゃ俺に悪いと思っているからだと、思っていたのに。
本当に、ただきとりさんを独りにしたくなくて、迷っていただけだったなんて。
その問題が解消されたら、こんなにもあっさりと俺を選んでくれるなんて。
心中が落ち着きもしない内に、足音が聞こえてくる。
扉が開いて、そこにいた黒尾さんが舌打ちをした。
「なーんだよ。もうちょい、顔に出しても良いんじゃね?嬉しいクセに。」
たまに仕事を放棄する俺の表情筋は、気持ちを表してやれる事は無く。
黒尾さんの楽しみを奪ったようで申し訳ない、なんて思う事も無く。
目の前の人を無視してりらに近付く。
突然の事だったけど、黒尾さんが動くなんてきとりさんが関わっているのは分かっていて。
それなら、りらの説得だろうと読めていて良かった。
ポケットの中にあった小さな箱。
彼女の前で膝を付き、頭を低い位置にして差し出す。
約束を守らせる強制的なものじゃなくて、俺の申し出を受け入れて欲しい。
決定権はりらにあると形で示した。