第37章 約束
家に戻って数十分後、インターフォンが音を立てる。
すぐ後に鍵が開いた音がしたから、元同居人の誰かだと分かった。
そして、リビングに入ってきたのは黒尾さんで。
連絡も無く来たのは初めてだったから、きとりちゃんから何か言われたのだろうと予想がつく。
知ってるのなら、相談してしまおうか。
黒尾さんは、昔から私の事をよく分かってくれてて、いつも答えをくれていたから。
「りら、お前に相談があんだけど。」
口を開こうとした時、先手を取られた。
私なんかに相談しても解決しないと思ったけど、取り敢えず聞く事にして頷きを返す。
「俺さ、守りてぇ約束があんだわ。」
話の冒頭部分だけで、心臓が跳ねてしまった。
約束の言葉は、今の私にはあまりに重い。
それでも黒尾さんは言葉を続け、きとりちゃんとの約束を話してくれて。
おかえりを言う役目は、自分がやりたいと言っていた。
「…おかえりって、複数の人が言っちゃいけない訳じゃないですよね。」
だけど、私も約束は守りたい。
黒尾さんだけに任せたくはない。
「…そうだな。」
私の頑固さを知ってるのか、黒尾さんも諦めたと思ったけど。
「だが、家で迎えた時に言わなきゃならない言葉でもねぇよ。同じ家に住んでる人間だけが、伝える言葉じゃないだろ?」
この家で迎えるのは、あくまで自分だと押し通してきた。
それについて、腹が立たない所か納得してしまう。
彼女は、おかえりを期待するのが辛いと言った。
私は、おかえりなさいを言う役目をその場で請け負った。
ただ、その場所は限定していない。
それなら、私は…。
「黒尾さん、私もきとりちゃんにおかえりを言います。京治と一緒に、ここに言いに来ます。」
「…サンキュ。」
私はこの家から出るのだと決意して、一緒に生きていきたい人を選ぶ。
言い方だけで理解してくれたようで、小さくお礼を言う顔は笑っていた。