第36章 特別な存在
そこまで笑われるような発言だっただろうか。
何故笑われているのか分からない。
「おまっ…今、ソレ気にするか?」
笑いすぎて、息も絶え絶えな状態で言われた言葉によって、笑われている理由は分かったけど。
これ、普通気にすると思う。
食器に、アクセサリー入れる意味が分からない。
目の前のシャンパングラスを睨むように眺めていると、その足を掴む指先が見えた。
「こういう演出なんだよ。ちょっとくらい素直に喜んでくれても良いんじゃね?」
「喜べる要素が見当たりません。」
だけど、さっきまでの重く感じていた空気が無くなったから、そういった意味でその演出に感謝はしている。
お陰で、罪悪感も少しは晴れた。
頭を占めていたそれが薄れると、ちゃんと返事をしなきゃならない状況なのだと理解する。
黒尾さんの手によって、私に向けて傾けられたグラスからは今にも指輪が零れ落ちそうだ。
受け取るように手を差し出せば、きっとイエスだと取ってくれるだろう。
でも、中々手を出せなかった。
「あの人を独りにしたくないのは、俺も一緒。
…だから、俺の家族になれよ。りらの本当の家族に、センパイの親戚に、なりたいんだ。」
真剣な眼で、声で。
再びプロポーズしてくれる。
その中に含まれる言葉で、私の気掛かりを読み取ってくれた事が分かった。