第36章 特別な存在
‐黒尾side‐
黙りかよ。
最悪じゃね。
こうなったりらに喋らせるのは難しい。
返事どころか、普通の会話すら、今日はもうしてくれねぇだろうな。
もし、応えてくれる気になった時の為にリボンで束ねた持ち手はりら側に向けて、テーブルの端に花束を置いた。
物は視線で追うのに、りらは何も言わないし、手を伸ばしもしない。
溜め息を一つ漏らして席に戻った。
そこで、タイミングを見計らったように運ばれてくるデザート。
そこで、もう1つサプライズを仕組んでいた事を思い出す。
ここは、部署は違うが勤め先で。
知り合いがウェイターやってるから、融通が利いてしまったのが今の俺からすりゃ、不幸だ。
会話の内容までは周りには聞こえてねぇ訳で、彼女側に向けた花束は成功のサインと思われて。
りらの前にデザートと共に置かれたシャンパングラス。
その中には、シンプルな指輪。
それを見たりらは、また作り笑いを浮かべる。
「…黒尾さん。」
これは、流石にマズい気しかしねぇな。
指輪は、結構前から用意してたモンだが、センパイを利用した前提で考えてるりらには、火に油だ。
「不衛生です。」
「…ぶっ!」
だが、生真面目なりらにとって気になったのは違う部分で。
不覚にも吹き出して笑ってしまった。