第36章 特別な存在
怒る気力も失せてしまう。
返事も、する気が全く無くなって深い溜め息を吐いた。
「この花束、センパイが用意したんだぜ?あの人、ブライダル関係だし、花屋とか付き合いあるから。
108本の赤い薔薇。意味も知って用意してくれたんだよ。」
それでも黒尾さんのプロポーズらしい話は続いている。
そういえば、私はこの中途半端な数の薔薇の意味を知らない。
調べようとした時に止められてしまったから。
もう一度、スマホを操作しようと手を払おうとしたけど出来なかった。
黒尾さんが手を離してくれない。
「意味は、俺がさっき言った通りだぞ。‘結婚して下さい’ってな。
りら、返事は?」
プロポーズを意味する花束。
用意したのはきとりちゃんで、今日の話を持ち出したのもその人。
それは、黒尾さんが利用しようとしたんじゃなくて。
きとりちゃん自身が私達がそうなる事を望んでくれたから。
彼女が、望んでそうしたなら、黒尾さんに悪い部分があるんだろうか。
こういうやり方でもされない限り、外デートを避けて、2人きりになるのも家の私の部屋だけにしていた自分の方が、寧ろ悪かった気すらしてきた。
今日は、会ってすぐからずっと不機嫌だったのもあって、罪悪感で頭が一杯になる。
返事をする余裕が無くなって視線を逸らした。