第36章 特別な存在
後で、と言っていた話を今してくれる気になったのか、黒尾さんが苦笑いしている。
「センパイ企画なんだよ、今夜のディナー。俺も、昨日知った。お前とデートすんの。」
それを聞いて一番に出てきた感情は呆れ。
確かに、デートを殆どしていないのは申し訳無いとは思っていたけど。
きとりちゃん、黒尾さんの予定も確かめずに無計画な事をよくやったな。
帰ったら計画性のない事をするな、は言わないと。
こんな高級店のディナーとか、安くないんだから。
そんな事を考えていた私の前で、黒尾さんが立ち上がった。
その姿を追うように若干見上げる体勢になる。
まさか、誤解して怒っていたのが気分悪くて先に帰るつもりなんじゃないだろうか。
「…どこ行くんですか。」
「お花を摘みに。」
「…トイレ、ですね。」
「こういう店でトイレ、なんてりらちゃんお下品。」
「さっさと行ってきて下さい。」
不安になりながら問い掛けたけど、返ったのは隠語で。
周りに聞こえる程に大きな声じゃないんだから、気を使わなくても良いと思う。
怒っている訳じゃないと分かると気が抜ける。
ふざけた言い回しに少し腹が立ったのもあって、早く行けとばかりに手で追い払うような仕草をして返した。