第36章 特別な存在
その人は、私が居るのを知っていたようで、気楽な様子でメニューを開いている。
「ワインでも飲むか?お前、焼酎党だけど、ここには生憎置いてないからな。」
「…飲み物云々の前に聞きたい事があるんですが。」
「…ん?」
「なんで、黒尾さんがいるんですか。」
「あー…。後で話す。」
そんな感じで濁されては、しつこく聞く事も出来ない。
後であれど、言わないつもりじゃないようだし、こんな場所で痴話喧嘩みたいな事をするのも恥ずかしい。
疑問を押さえて、予定とは違う人との食事が始まった。
それでも2人に騙されたような気がしていて、気分が良くないままする食事は、いくら良いものであっても味気無い。
私の機嫌が悪いのには黒尾さんも気付いているようで、無駄に話し掛けてもこなかった。
「…なァ。いい加減、機嫌治してくンね?」
「喋らないのは元からです。」
「お前さ、自分で気付いてねぇの?」
「何がですか。」
「りらは料理、好きだろ。目新しい料理、いつもなら嬉しそうに食うのに、今日はただ詰め込んでるだけ、じゃね?」
食事も終盤、後はデザートのみになった時に、無言に耐えかねたのか話し掛けられる。
指摘された事は当たっていて、思わず黙った。
「センパイ使って、呼び出したとか思ってンの?それで怒ってる、とか。」
きとりちゃんに、デートの仲介役をやらせるなんて無神経もいい所だ。
どうせ誤魔化せないから素直に認めて頷く。
「別れた元カノ経由で、デートに誘うとか頭大丈夫ですか。」
「それ、誤解な。」
嫌味をたっぷり込めたつもりだったけど、すぐに否定された。