第36章 特別な存在
約束の時間が近付く。
バイト先から直接行くから、私の方が早く着きそうだ。
聞いていた場所に辿り着いてみると、見た事のあるホテル。
言われたレストランは最上階で、見覚えがある。
何故、ホテルやレストランの名前を聞いた時に気付かなかったんだろうか。
黒尾さんの勤め先のホテルである事に。
しかも、このレストランは何年も前に黒尾さんに連れてきて貰った事がある。
どうせなら2度目も黒尾さんと来たかった、なんて今さらどうにもならない事を考えていた。
「ご予約のお客様ですか?」
1人で先に入るのも気が引けて、レストランの前をうろついていると、ウェイターに声を掛けられる。
「…はい。連れがまだなので…。」
「それでしたら、中でお待ち下さい。…ご予約のお名前をお伺いして宜しいですか?」
外で待つ意思を伝えようとしたけど、促されてしまっては断れず。
誰かと一緒でも緊張するような高級店に1人で入る事になった。
案内された席に着いて数分。
約束の時間が過ぎて、苛々しだした頃。
約束した相手ではない人が、私の前に現れた。
「悪ィ、待たせたな。」
驚きで声が出せない。
そんな状態の私を気にせず、その人は目の前に座った。