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第33章 episode0


私は両親を失って狂っていた。
酒に溺れて、仕事にも行けず閉じ籠っていた。
家にいても、ふとした時に感じる孤独、虚無、絶望。
そんな状態の私を心配してりらが泊まりに来た日の話。
停学中で、時間もあったから丁度良かったんだろう。

いつも通り、酒を飲んでおかしくなった私は包丁を眺めていた。
狂ったまま酔った私の思考は難しい筈の選択を簡単に導き出した。
こんなに辛いなら死んでしまえばいいのだと。
扉が開くような物音が聞こえたのを合図に、掴んだ包丁を腹に向かって振り下ろした。
りらが様子を見に来たと分かって、心配して欲しくて、止めて欲しくて、少し残っていた理性が選んだタイミング。
私の希望をりらは叶えた。
ただ、言葉ではなくて行動での抑止だった。
気付いた時には刃先から私を護るように腰に抱き付いたりらの左の腕に、包丁が埋まっていた。
彼女の大切な利き腕を、私は奪った。
りらにとって手先の器用さは武器で、手は何よりも大事なものだったのに。
痛くて、意識だって保つのが精一杯の筈なのにりらは笑った。
作り笑いだと分かったけど、馬鹿な事をした私への怒りとかじゃなくて、言葉で慰める事が出来ない彼女の精一杯の励ましだった。
その後、正気を取り戻して救急車を呼び、病院で緊急手術が行われた。
傷害事件だから警察も勿論来て、病室で私は捕まる覚悟をした。
でもりらは、包丁を持ったまま移動しようとして転んだ、とか訳の分からない言い訳をして私が刺したとは言わなかった。
被害者が訴えないなら事件にはならないから、私は無罪放免になった。

その時、病院に来たりらの両親は、りらの容態より入院費の心配とかしていて。
彼女を護れるのは自分しかいないと、思った。

親戚と疎遠になったのは、私が避けたからじゃなくて。
もしかしたら、この事件が原因かもしれない。



一度でも止めたら、声が出なくなる思って、口を挟ませる間も作らず話す。
りらが来る直前に、こんな話をする事になるなんて思わなかった。
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