第33章 episode0
月島くんがリビングから出て。
一人になっちゃった、と思った瞬間に緊張の糸が切れた。
力は入っていない気がする。
それでも何故か歩けている。
自分が、どこに向かいたいのか分からないけど、自然と動く足に従って、強い雨と風の中、傘も差さずに歩き続けた。
辿り着いた場所。
そこには…。
【死亡事故発生場所!スリップ注意!】
と書かれた看板。
家から近い、この場所で。
私の両親はいなくなった。
私の家族はいなくなった。
へこんでいた筈のガードレールは修復されていて、もう何の形跡も残っていない。
それで時間の流れを実感して、自分も前に進まなきゃいけないと分かった。
でも、悲愴的な事を考え続けずに済んだのは、皆のお陰。
私には、縁があって出会えた新しい‘家族’がいる。
体の感覚が戻ってくると、強い雨の感触が若干痛い。
帰ろう。
皆が帰ってくる、あの家に。
天気とは逆に晴れやかな気持ちになって、振り返る。
後ろには、月島くんが立っていて。
「風邪ひきますよ。あ、きとりさんは、ナントカだからひかないですね。」
皮肉のような事を言って、傘を差し出してくる。
会話なんか数えられるくらいしかしてないのに。
そんな私の為に雨の中、追い掛けてきてくれたんだ。
それが嬉しくて、嫌味なんか気にならなかった。
傘を受け取るフリをして近付き、そのまま飛び付く。
「アリガト。」
「…ちょっ!濡れた体で抱き着かないで下さい。」
「濡れてなかったら、抱き着いていいの?」
「それでも、遠慮したいです。骨が痛いんで。」
「肉付き悪くて悪かったな。自分でも、今のガリガリな体型は気にしてるんですぅ!」
「体型より身長気にした方が良いんじゃないですか?並の男よりデカイですし。」
月島くん…いや、もうツッキーで良いや。
この人、照れ隠しでこういう事を言うんだろうな。
それも受け入れられたら、ツッキーとも仲良くなれる気がした。