第33章 episode0
男がいなくなると緩められた腕から抜けて、後ろを振り返る。
「木兎…アリガト。なんで、助けてくれたの?」
「嫌そーな顔してたろ?それに、彼氏のフリして女護ってやんの、やってみたかったんだよな!なんか、カッケーじゃん?スマートな男!って感じで!」
「チビって暴言吐いた時点でスマートじゃないよ。」
「ひっでー!助けてやったのに!」
「でも、カッコ良かったよ。」
「マジで?何?俺に惚れた?」
「…いや、惚れない。」
「ちぇっ!可愛くねーの。」
たった一度しか会った事がない女を助けた理由が、なんとも面白くて話が弾んだ。
その場で立ち話もナンだから、食事に誘う。
酒が飲みたい、とリクエストされて、それは却下…したかったけど、この喋りまくる暴走男には敵わなかった。
前と同じく強引に手を引かれて、近くのチェーンの居酒屋に入る。
こういう、チェックが厳しい所でも、年齢確認されないのは、やっぱデカいからかな。
店にも止めて貰えないなら、諦めるしかない。
案内された席に着く。
ここからの状況も、木兎と初めて会ったあの日と一緒。
勝手に料理やら酒やらを頼み、凄い勢いで飲み食いしている。
私を襲おうとした事なんか、無かったみたいになっていて。
気まずくならないのは有り難いと思える。
それに、自分の苦手な1人の時間を、騒がしい人と過ごせるのは嬉しい。
この前みたいに、呆気にとられて緩んだ訳じゃなく。
自然と、笑えた。
クロ以外の人の前で笑うなんて久々の事だった。